M3 キノトロープ | 生田昌弘のWebサイト 「仕事」「情熱」「趣味」の3つがテーマです
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今後のWebデザインとは

新たな方向性のデザインへ

生田 モックさんは現在どのようなお仕事をされているんですか?

モック 私は一年前と比べても、随分ちがった仕事をしています。これは、アメリカのインターネットバブルがはじけて、経済が落ち込んだからです。はじめはWebデザインを中心にしていたプロジェクトが、現在ではBtoB、CRM、ERPといった大規模な情報システムの統合へとシフトしています。
クライアントは、私たちが過去に構築したサイトをより役に立つものにすることを求めています。彼らは目に見える結果を期待しているのです。したがって、Webデザインにはグラフィックデザインだけでなく、テクノロジーや管理システムの理解が必要になっています。現在のWebデザインにおいては、ソフトウェアプロダクトデザインと同じような機能が要求されています。私たちがプロジェクトに関わる時には、ビジネスルールや仕組みの理解に時間を使います。そして情報システムとの相互性を考慮に入れなければなりません。複雑さを克服して新たな方向性のデザインをしなければならないのです。

生田 日本でも、アメリカと同じような状況になってきていると思います。少し遅れてはいるのですが、やっとインターネットがビジネスとして考えられる状況になりつつあるのではないかと思います。
プロジェクトの規模が大きくなって、大掛かりな体制になっている。私自身の仕事というのは、そのプロジェクトをマネジメントしていくことです。日本でもデータベースが非常に重要な要素になってきています。

モック データベースはデザインビジネスの一部分になっていますね。

生田 はい、そしてそのためにデザイナーが混乱をきたしているとも考えています。今まで、デザイナーと言えば、日本ではグラフィックデザイン的なものを求められていたと思います。それが急にインターフェースであるとか、非常に技術的な要素を取り込んだデザインを求められてきています。

モック アメリカでも同じような変化と移行が起こっています。一年前は、グラフィックデザイナーはプロジェクトの操縦者の役割を果たしていました。どのようなWebサイトをつくるかを決めていたのです。しかし技術的、経済的な要求が強まり今や工学者が主導権を握るようになりました。実際にグラフィックが減って、インタラクティブな機能がより要求されています。徐々にデザイナーの役割は情報デザインの世界に移行してきており、もはやグラフィック・デザイナーではなく、インフォメーション・アーキテクトと呼ばれるようになってきています。現在、グラフィックデザインはWebサイト開発の一つの側面にすぎず、開発の大部分はインフォメーション・アーキテクトによって占められています。

デザインをする上で重要視すべきこと

生田 モックさん自身のことでも、会社のデザイナーに向けたことでもいいのですが、今一番重要だと考えていること、デザインをするうえで、今重視しなければならないことは何だと思いますか?

モック テクノロジーは変化を続けていますので、新たなスキル、プロセス、テクニックや方法論を適用しています。しかし私のデザイン哲学の唯一の基礎は、ユーザを中心に据えるという考え方です。それは個人にとって、役に立つものであるか、使えるものであるかどうかということです。Webサイトであれ、CD-ROMであれ、パッケージであれ、ユーザを中心に据えるという考え方があってこそ、デザイン自体が以下に表現し明示するべきかの基準を作れるのです。「もしペーパークリップのように、役に立つ、使えるようなものであるなら。」これは私が以前から行っていたビジネスをいかにデザインをしていくか、その方向の土台のようなものでした。デザイントレーニングの中でもこの組み立てをずっと使っています。だから、私は前進しているのです。

それから、魅力的なこと。それは感情に訴えるもの、ひきつける力のあるもの。これらは測ることのできない、むずかしいものです。しかし、この要素はなくてはならないものです。楽しく、エキサイティングであるかどうか、感情に訴えるような経験であろうとなかろうと、経験がすべてです。相互性をあつかう場合、魅力がなければ、もう一度アクセスしようと思わないでしょう。実際、デザインは多くのことをもたらしてくれると信じています。このように、私のデザインへの基本的な考え方は、役に立つこと、使えること、そして魅力的なことです。

さらに私個人としては、この哲学的土台の上に、理解のためのデザインという考え方を持っています。人々が結びつき、私たちがいかに彼らと関係しているかということを理解してもらうことが、とても重要です。これは私のデザインについての個人的な哲学です。

デザインを頻繁に変えなければ、魅力的ではないのか? という質問がよくあります。ものによってはそうです。しかし、たとえば、私たちが行ったプロジェクトの一つ、ユナイテッド航空ではWebサイトはずっと変えないでおきたい、という要望がありました。なぜなら、このWebサイトの魅力を決めるのに大切なのは一貫性と有効性だったからです。ユーザを中心に据えたデザインを扱う場合であれば、人に見てもらうためには、変えないという選択肢も検討されなければならないのです。
他に文章や言葉にもまた、魅力的であることを考慮に入れるべきです。事実、コピーライティングにも気を遣っています。

魅力的ということの分類は、「タクソノミー(taxonomy)」と言います。
何が分類かという与えられたテーマを、自分たちがどう理解したかということを表現するために使う一連の言葉です。
魅力的ということの分類について、デザイナーはどのように定義していいかということさえも知りません。それではデザイナーはこのことをクライアントに説明することもできません。しかし、私たちデザイナーはクライアントを説き伏せなければならないのです。「タクソノミー」とは本来、生物学の分類などのことです。魅力的であることの分類は、求められているものです。そして、今ここには存在していないものです。
芸術から科学をつくろうとすることには危険性があります。だからコミュニケーションのためにデザインしているという意識を明確に持たなければなりません。芸術を破壊するようなやり方は繰り返したくありません。

生田 今の話題は、僕自身が指示を出すときにも困っていることなんです。ビデオやラジオ、テレビのスイッチ類が非常に使いやすく配置されているとか、マニュアルを読まなくてもすぐ使えるだとか、そういった部分はわかりやすい。それに、テレビは明確な必要性を持っているから使いますよね。ところが、Webサイトは必ずしも必要なわけではないので、使ってもらうための魅力づけの部分が入ってくる。これをどこまで入れるのか? 往々にしてそれを入れ始めると、使いやすいことへの配慮が消えていく。つまり相反してしまう要素のように考えているんですけど、その辺はどのように考えていらっしゃるのでしょうか?

モック 役に立つという要素と使えるという要素はワンセットのものです。そして、魅力的であるという要素がある。私たちは、デザインにおいてその2つの基本要素の適したブレンドを見つけることに挑戦しています。そして魅力的であるということを超えたものを見つけようとしているわけです。両者のギャップを埋めるために、ユーザの立場に立ったバランスの良さを見つけることです。それは、このくらいの負担には堪えられるという限度です。これまで負担が適切ではない時がありました。しかし、どのくらいの負荷が限度なのかという点に絶えず注意しなければなりません。

両者を融合させる唯一の方法、これが私たちの試みであり、デザインに要求されていることです。それはユーザを理解するためのモデルを持つことです。私たちは、ユーザを理解し、ユーザの視点でものを見なければなりません。私たちはデザインが提供するユーザ経験のモデル作りとして、人々が物事をどう考えるかという普通の視点を理解しなければなりません。人々がこの考えを持ち、物事が何であるかを理解しているなら素晴らしいことです。この方がよりよいに違いありません。ユーザは誰なのか、何を期待しているのか、このトピックをどう思うのか、いわゆる経験のモデル作り。その経験が役に立つと思います。

生田 モックさん、最後にWebデザイナーへのメッセージをお願いします。

モック よい仕事をしてください。デザイナーが信頼を得るために大切なことです。そしてインターネットはデザイナーを必要としていますから。もう一度言いますが、デザイナーはユーザの立場に立って理解しなければなりません。芸術的な表現では、デザイナーは信頼を得ることはできません。ですから、よい仕事をする、ユーザに敬意を払って仕事をするということは、本当に重要なことだと思います。それができたら、インターネットはもっともっとおもしろい所になるでしょう。私は何年もエンジニアがデザインするのを見てきました。それは立派で、悪いことではないのですが、もし、デザインのスキルとすばらしいエンジニアリングが結びつけば、かなりすばらしいものを手にすることができるのではないでしょうか。

生田 今日は、どうもありがとうございました。

(2001年4月3日/セピエント社 サンフランシスコオフィスにて)





Profile

Clement Mok氏

Webデザイナー、評論家

デジタルデザインのパイオニア、著述家。経営及びテクノロジーのコンサルティング会社Sapientの主任クリエーターとして活躍している。


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