オウンドメディアでは、良質なコンテンツを作成するだけでなく、それを求める人に届けなければなりません。特に、長年運用しているサイトなら、蓄積してきたコンテンツ資産を有効活用したいものです。
ある製薬会社様が運営するオウンドメディアには10年以上にわたり1万ページ以上の専門的な記事が掲載されていましたが、古いスタイルのユーザーインターフェース(UI)やサイト構造が原因で、最新の記事しか見られないという課題を抱えていました。そこで、CMSでのコンテンツ管理への移行の際にサイト構造やデザインの見直しを行い、コンテンツ資産の有効活用を図りました。
プロジェクト概要
製薬
1万ページ
約1年半
POINT
課題
古いデザインとスマートフォン非対応は、最新のウェブ利用の標準に適合していない
一覧ページのページングが多いなど使い勝手が悪く、価値のある記事が埋もれてしまう
古いページが閲覧されないのでアクセス解析による改善活動などが見込めない
提案
担当領域ごとにコンテンツを明確に整理し、関連性が高い情報のみを表示
古い記事を適切に表示し、関連する記事への導線を設けてコンテンツの再発見を促進
ユーザー体験シナリオに沿った導線設計とアクセス解析の実施による改善
成果
ユニークユーザーが14%増加しページビューが倍増
直帰率10%低下、再訪問数も1.5倍に増加
PDCAサイクルを通じてサイト改善だけでなく、業務改善にも着手
背景/課題
古いスタイルのUIが原因で過去記事へのアクセスが困難
オウンドメディアでは、専門性のあるコンテンツを提供し、それらを求めるユーザーからの信頼度を得る効果を持っています。今回紹介する製薬会社様のオウンドメディアは、医療関係者を対象に、最新の医療情報やセミナーなどのコンテンツを提供してきました。ユーザーはオウンドメディアにアカウントを登録し、その閲覧履歴を基に、製薬会社のMR(医薬情報担当者)が製品の提案活動を行います。これにより、MRはユーザーの関心に合った提案活動が可能となります。
この製薬会社様からご相談を受けたのは2017年ごろでした。すでに10年以上運営されており、1万ページを超える大規模なサイトとなっていましたが、スマートフォン利用者が増加しているにもかかわらず、古いデザインやUIで運用されていたため、有益な記事が見過ごされがちという課題に直面していました。
オウンドメディア自体は長年にわたり良質なコンテンツを蓄積してきたものの、ページングがわかりにくく、ユーザーが適切な情報にたどり着きにくい、またスマートフォンでの操作が難しくなっていました。そのためトップページ周辺の新着記事は見られても、過去の記事が見られない状況でした。医療関係者が自身の専門分野に関連する情報を探したいと思っても、記事の分類がわかりにくく、検索も困難な状況にあったのです。
加えて、有効なアクセス解析ができず、サイト改善のためのPDCAサイクルがうまく機能していない状況でした。そこでキノトロープは、CMSによるサイト管理への移行とともに、デザインやUIの見直しなどの改善を提案しました。
プロジェクトのポイントや工夫
ユーザーの体験に基づくシナリオから、サイト構造や各ページの動線を設計
キノトロープでは「ユーザー体験シナリオ」というメソッドを用いて、サイトに訪れた際のユーザーの体験を満足度の向上につなげるためのシナリオを設計しています。今回のCMS環境への移行では、コンテンツ資産を適切に管理・活用するための改善に加え、サイト構造を見直し、ユーザーが求める最適なコンテンツを見つけやすい形に変えていきました。
例えば、眼科の医師は精神科の情報を読むことは少ないため、関連する領域の情報をしっかり整理することが求められます。そのため、サイトの構造を変更して、関連する情報だけが表示されるようにしました。さらに、古い記事でも関連する内容が目に付くように、未読の記事や関連情報を適切に表示するようにしました。ほかにも、セミナーの予告なども取り入れ、サイト全体のページビューや回遊性を向上させる工夫を行いました。このほか、薬の情報を探しているユーザーには、その薬の使い方やFAQ、解説動画を含む関連情報を提供しました。このように、「ユーザー体験シナリオ」に基づいてユーザーの満足度を高められるよう各ページの導線設計を行っていきました。
この製薬会社様は精神科に強みを持っているため、精神科に関しては独立したサイトを構築しました。このほか、医療関係者全般の会員向けサイトや、非会員向けのサイトなどユーザー別のサイトも設けています。サイトは複数ありますが、CMSでのコンテンツ管理によって、1つのコンテンツを複数のサイトで表示する工夫もしました。
これらの工夫により、ユーザーのニーズに合わせたOne to Oneの情報提供が可能になり、アクセス解析の有効性をもたらす下地ができました。
デザインに関しては、マテリアルデザインを採用して視覚的にアクセスしやすいサイトを目指し、各ページで求められるコンテンツを明確にし、ページングも改善しました。マテリアルデザインはGoogleによって開発されたデザインシステムで、滑らかなアニメーション、鮮やかな色彩、影の効果などを用い、わかりやすく一貫性のあるUIを作れる特徴を持っており、PCやスマートフォンなどのデバイスを問わず快適に閲覧できるサイトにできるメリットもあります。これにより今回課題となっていた操作のしにくさを解消し、使いやすさを向上しました。
キノトロープではお客様からのさまざまな相談に対して解決策を提案し続けることを強みとしています。要件があいまいなご要望をお聞きして具体的な方法にしていくことや、社内での合意形成を促進するための資料を作成・提供する、さまざまな形での支援を行うことで、信頼関係を築いていきます。なお、このサイトのリニューアルに関しては、キノトロープだけでなく、多数の制作会社も関わっています。デザインやサイト構造のリニューアルだけでなく、コンテンツ制作のワークフロー改善も行ったことで、関係各所を巻き込んでサイト全体に対する最適化の提案が可能となりました。
成果
ページビューが倍増し、サイトの計測指標が軒並み向上
CMS環境への移行とリニューアルによって、計測している指標の向上が見られました。ユニークユーザーが14%増加し、直帰率は10%低下、再訪問数は1.5倍に増加、1訪問あたりのアクセスページ数も増え、全体的なページビューは倍増となりました。
サイトの構造を整理した結果、アクセス解析が格段に行いやすくなりました。そのため定例会議で指標を報告するだけでなく、数字を基にした具体的な議論が進むようになり、PDCAサイクルを通じてサイトの改善を続ける活動が活発化しています。現在は、コンテンツの向上だけでなく、医療関係者へのサービス提供といった、よりビジネスに近い企画にも踏み込んでいます。たとえば、医師にDMを送る機能の導入やオンラインでの資料発注システムなど、新しい取り組みに積極的に取り組めるようになり、企画活動が活発になっているといいます。
キノトロープとしては、別プロジェクトとしてこの製薬会社様の社内イントラサイトの構築にも関与しています。たとえば、医療関係者に製品を提案するMR(医薬情報担当)が、オウンドメディアのアクセス状況をスマートフォンやPCから常時確認できるような機能も作っています。これにより、自分の担当する医師がどのような情報に興味を持っているのかがいつでもわかるようになります。ほかにも、サイト上のユーザーの動きを可視化するダッシュボードの仕組みなど、CMSとイントラサイトを連携した機能も提供しています。
メッセージ
ニーザーのニーズと環境の変化をとらえて、最適なコンテンツを提供
適切なコンテンツを求める人に届けるOne to One施策を行う場合、ユーザーのニーズを考えて、興味がある内容とそうでない内容を明確に分け、余計なコンテンツをノイズとして出さないように設計することが重要です。
今回の例のように、長期にわたって運用されているサイトでは、最新のUIに対応することも重要な要素です。ただし、最新のデザイントレンドに追いかけることが主眼ではありません。多くの人が利用して慣れ親しんでいるスマートフォン向けのUIの使い勝手が、どのデバイスでも同様に得られるように配慮することが重要です。最近ではPC向けサイトもスマートフォン向けのように1カラムの形で設計され、スマートフォンでの使いやすさをPCにも反映させていることが増えています。サイトのコンテンツ資産を有効活用するには、このようなユーザー環境の変化をとらえて、改善活動を続けていくことも必要です。