対談企画の第1回目は、店舗スタッフ専用のオンライン接客アプリケーション「STAFF START」を構築し、年間1,200億円規模の流通額を生み出すビジネスへと成長させた株式会社バニッシュ・スタンダード代表の小野里寧晃氏を迎えています。

かつてキノトロープで一緒に働いていた二人の対談の中で、サービス誕生の原点やインフルエンサーではなく「アンバサダー(プロ)」が活躍する令和の時代性、そして数々の逆境を乗り越えた開発秘話が明かされます。

実績を積み重ねてアパレル業界の常識を覆した軌跡を振り返りながら、今後のコスメやサービス業、さらには世界への展開に向けた熱いビジョンが語られる内容となっています。

生田:それでは対談企画の第1回目、ゲストは「STAFF START(スタッフスタート)」というビジネスを構築されている小野里寧晃さんです。小野里さん、どうぞ!

小野里:よろしくお願いします。生田さん、こんにちは!

生田:はい、よろしくお願いします。

小野里:株式会社バニッシュ・スタンダード代表の小野里寧晃と申します。よろしくお願いします。

生田:まずは小野里さんの経歴を遡ってみたいと思います。1982年10月24日生まれですが、今はおいくつですか?

小野里:今39歳になりました。

生田:23歳くらいの時にキノトロープに入社されましたからね。その時の印象しかないので、もう40歳手前だと聞いてびっくりしています。

小野里:来年でもう40歳になります。

生田:そうですね。群馬県前橋市出身で、日本大学を中退されていますね。

小野里:中退です。2週間で行かなくなってしまいました。ろくでもないですね(笑)

生田:その後デジハリ(デジタルハリウッド)に行ってるけど、なんでデジハリに行こうと思ったの?

小野里:当時はDJをやっていて、しばらくフラフラした後に、きちんとインターネットなどを覚えて、自分がやっていることをもっと世の中の多くの人に伝えたいなと思って、デジハリに行きました。

生田:そこで出会って、2004年にキノトロープに入社されたと。そして2011年頃に卒業だよね。その年にバニッシュ・スタンダードを設立したの?

小野里:そうです。

生田:そうすると、立ち上げてから何年になる?

小野里:バニッシュ・スタンダードは2011年3月からあるので、10年以上が経ちますね。

生田:おめでとうございます。10年も続けられましたね。バニッシュ・スタンダードさんのサービスはもちろん本人から詳しく聞きますが、リアル店舗のスタッフがインターネットを通じてプレゼンテーションを行い、商品を売るというアイデアは非常に素晴らしく、インターネットらしいビジネスですよね。

小野里:ありがとうございます。

生田:すごくいいサービスだと思います。これは2016年頃に立ち上げたサービスですか?

小野里:はい、2016年に立ち上げました。

生田:内容についてはこの後詳しく聞したいと思います。キノトロープを卒業して会社を興し、実際にどのようなサービスを展開しているのか説明していただけますか。

小野里:わかりました。私が今提供している「STAFF START」というサービスは、特に現在はアパレル業界を中心に、ものすごく多く導入していただいています。これは店舗スタッフ専用の「オンライン接客アプリケーション」です。

どのようなサービスかというと、みなさんも街角で見かけたことがあるかもしれませんが、アパレルの店員さん同士が写真を撮り合っていることがあります。あれは実はSTAFF STARTを使って撮影しており、あのまま投稿すると、自分が所属しているブランドの公式通販サイトに直接掲載される仕組みになっています。

これにより、通販サイト(ECサイト)の基本情報だけでなく、スタッフさんの応用が利いた情報がどんどん見られるようになり、コーディネートや動画もチェックできるようになります。

そして、その投稿を経由して商品が購入されると、スタッフさんに「いくら売れたか」「どの商品が買われたか」がしっかりと可視化され、企業からもきちんと評価されるという文化ができるように作っています。

アパレルのスタッフさんをはじめ、現在はコスメなど様々な業界で使われているのですが、店舗の店員さんはなかなか給料が上がりにくいという現状があります。

その構造を変えたくて、利益率の高い通販サイトで売れた場合にスタッフさんが正しく評価される時代を作ろうと考えました。「スタッフさんの給料を1,000万円にしてやろう」という強い気持ちで、今このサービスをどんどん提供しています。

現在は約1,600ブランド、13万人ほどのスタッフさんに使っていただいており、スタッフさんがオンラインで生み出す流通額は年間で1,200億円規模にまで成長しました。スタッフさんがこのようにオンラインで商売をする時代になってきています。このようなサービスです。

生田:「リアルとバーチャルの連動」といった言葉は昔から言われていますが、バーチャル側が得をしてリアル側はパーツとして使われてあまりいい思いがない場合が多いです。しかし、このサービスを聞いた時、本当に意味でのリアルとバーチャルの連動であり、リアルの方に非常にスポットが当てられていて、双方がハッピーになれる仕組みだと感じました。

小野里:ありがとうございます。ただ、こうした考え方ができたのも、やはりキノトロープで仕事の基本をしっかりと教わってきたからだと思っています。

例えば生田さんから色々教わっているときに「課題は問題の根本ではない」というお話を何度も教えていただきました。この5年、10年の間、世間ではずっと「店舗の売り上げが下がって、EC(通販)の売り上げが上がっている」ということが課題だと言われていましたが、これは実は問題の表面的な「事象」に過ぎないのではないかと考えました。

そこに注目して問題の根本がどこにあるのかを掘り下げてみたところ、結局は「現場のスタッフが困っている」という根本に行き着きました。ではどうしたらいいかを考えた時、店頭には商品があり、レジがあり、スタッフが立っていますが、これまでのECサイトには商品とレジしか存在していませんでした。

そこで、ニーズが非常に高まっているECサイトに、スタッフさんもそのまま立てる仕組みを作ればいいのではないかと気づきました。店舗の売り上げが伸び悩み、経営者がECを伸ばさなければいけないと言っているのであれば、スタッフさんをECサイトに立たせることで、根本的な問題を改善できると考えたのです。

このような本質に気づけたのは、キノトロープで生田さんにとことん修行をさせていただいたおかげだと思っています。

生田:「ソーシャルショッピング」という言葉が出てからもう10年以上経つかと思いますが、実はソーシャルショッピングで大きく成功しているところはどこにもありません。なぜ成功しないのかというと、売る側の「気概」がないからです。

実際の店舗ではないため、売る側に「どうしても売ろう」という気持ちがそもそも生まれにくいのです。ですから、現在はInstagramなどをはじめ様々なツールで販売できるようにはなっていますが、売る側のモチベーションが伴わなければ、今後もソーシャルショッピングが定着するのは難しいと感じています。

もちろん、普及や認知自体は進んでいくとは思いますけれどね。実は以前、小野里さんと一瞬、似たような事業を一緒にやろうとしていましたよね。ソーシャルショッピングではなく……何という名前でしたっけ?クラウドショッピングでしたか?

小野里:名前忘れてしまいました(笑)

生田:そういったものを一緒に企画していました。それは、自分がECで購入した商品が、そのまま自分のオンラインショップに並ぶというサービスでした。ソーシャルショッピングとの違いは、自分が実際に買って「良い」と思って使っているからこそ、人にお勧めできるという「買い手の気持ち」が入る点にあります。

当時も「既存のソーシャルショッピングはうまくいっていないよね」という話を二人でしていて、その原因はやはり「売る側の気合や気持ち」にあるという結論になりました。

それなら、ECで商品を買ってくれた人にそのまま売ってもらえばいいのではないか、本当に好きで使っている人の言葉なら説得力があるから、購入者全員が自分のショップを持てるようにしようというアイデアでした。

これは、小野里さんが今やっているサービスに非常に近いですよね。私が最も素晴らしいと思うのは、スタッフの皆さんは自分が好きなブランドで働いているわけですから、当然「売りたい」と思っていますし、その商品の良さを誰よりも知っているという点です。そうした人たちが心を込めて紹介してくれる仕組みだからこそ、成功しているのだと思います。

小野里:そうですね。その点も、生田さんと色々と話している中で気づかされたことです。当時、生田さんからは「もっと情報を可視化しろ」とよく言われていました。歴史を振り返ると、昭和は「物」を作れば何でも売れる時代で、平成になると「事(体験)」で売る時代になり、そこからインターネットを通じて情報が急激に蔓延していきました。

ただ、平成の後半になるとユーザーレビューやインフルエンサーが増えすぎてしまい、今度は情報が溢れかえるようになってしまいました。その結果、ステルスマーケティング(ステマ)のような問題も起き、「事」だけで売ることが難しくなってきたと感じていました。

そこで改めて市場を見た時に、そのブランドや商品を心から愛している「店舗スタッフ」という存在に、まだ誰も目を向けていないことに気づいたのです。これからの令和は「プロが売る時代」になります。単なる情報だけでなく、プロの「思いや気持ち」を乗せて売ることができる人たちが集まれば、ものすごいパワーになるだろうと思ってこのサービスを作りました。

生田:先ほども話に上がりましたが、僕は「インフルエンサー」という言葉は嫌いです。

小野里:僕も嫌いです。

生田:STAFF STARTの思想は、インフルエンサーの真逆でどちらかと言えば「アンバサダー(大使・応援者)」に近いものだよね。これからの時代、インターネットで物を売るためには、有名である必要はなく、その商品を愛しているという「思い」を持ったアンバサダーでなければならないと思っています。

いくら知名度があって集客力や会員数が多くても、本人がその商品を好きでないのなら、やっぱりダメだよね。そうした意味でも、このサービスを最初に見た時は非常に共感しました。

小野里:インフルエンサーのように「フォロワーが多いから偉い」という時代は終わりつつあると思います。もちろんフォロワーが多くて熱量も高ければ素晴らしいですが、これからはフォロワー数が少なくても、どれだけ熱量の高いファンがついてくれているかという時代に確実に切り替わっていくはずです。

生田:僕の会社でもスタッフに「インフルエンサーではなく、アンバサダーを探しなさい」と常々言っています。企業のフォロワー数が少なくても、自社を愛してくれている人を見つけ出して、ありがとうっていうようにしようっていう。絶対にそういう時代になりますよ。ところで、このサービスはどういうタイミングで、なんで思いついたの?

小野里:先ほど生田さんとお話ししていてびっくりしたんですけど、実はキノトロープにいた時代に、すでに僕はアイデアを出していたんですよね。

生田:そうなんだよ。昔の資料を見返していたら、ある企業のECサイトのプレゼン資料に、「ECを展開して売り上げを伸ばしましょう」という提案とともに、多方面で顧客との接点を持つために「店舗スタッフがしっかりとECにコミットできる仕組みを作る」という絵が描かれていて。

プラットフォームという大がかりな概念ではなかったものの、ECサイトの中にスタッフが売る場所(売り場)を作ろうという提案で、これがすべての原点だったのだなとちょっと感動した。

小野里:それは嬉しいですね。当時はとにかく色々なアイデアを出さなければいけない必死な時期でしたが、その頃から無意識にスタッフという存在に目を向けていたのだと思います。

生田:ただ、このSTAFF STARTのサービスを本格的に思いついた時は、バニッシュ・スタンダードの経営状態が正直あまり良くないタイミングだったんだよね?

小野里:全然良くありませんでした。アイデア自体はたくさんありましたが、当時はまだ単なるアイデアに過ぎず、自分の中で完全に腹落ちしている状態ではありませんでした。

ただ、本当に経営が苦しくなり、社員がいなくなって借金だけが膨れ上がって、「もうこれ以上は無理かもしれない」と追いつめられていた時期に、友人のアパレルショップの店長からこう言われました。「お前たちがやっているようなECというものが世中心にあるから、リアル店舗が苦しくなるんだ。俺たちの売り上げも在庫も取られて、体制も4人体制から3人体制になって出会いもないし、服も毎日買っているし」と。

その話を聞いた時に、「以前考えていたSTAFF STARTのアイデアならこの状況を救えるのではないか」と思い、過去のアイデアをもう一度掘り起こして数億円の借金はありましたが、とにかくやってみようと決意しました。

生田:いざサービスを立ち上げようとした時や、進めている途中も含めて、当時の周囲の反応はどうでした?

小野里:「バカじゃないの」って言われました。理由は二つあって、一つは大きな借金を抱えて社員もいなくなった人間が、何を血迷ってそんな新しいことを始めているんだ、火の車がさらに大炎上するぞということです。

もう一つは、アパレル業界の方々から「店舗のスタッフをECサイトなどのオンラインに立たせるなんてあり得ない。ブランドのイメージやブランディングがあるのだから、スタッフを表に出してはダメだ」という話をたくさん受けました。

生田:俺も、何か新しいビジネスを始めようと思った時、周りの人に意見を聞くことがあります。でも、みんなが賛成するようなことは絶対にやらないようにしています。なぜなら、全員が賛成することは誰でも思いつくことであり、誰でも参入できるからね。

そもそもキノトロープを立ち上げる時も、周囲の人間は100%反対しました。当時はインターネットが何なのかよく分からない時代でしたから、全員に反対されたことで、逆に「これはチャンスかもしれない、いけるぞ」って思ったんだよね。やっぱり成功するビジネスを立ち上げる時というのは、周囲から反対されるよね。

その後、実際にサービスをリリースされたわけですが、最初から一筋縄ではいかなかったよね。いろんな問題が起きたと思うんだけど、一番苦労したのはどんなこと?

小野里:最も困難だったのは、やはり「店舗スタッフが公式通販サイトに立つ」という、これまでの業界の常識を覆して認めさせることでした。「そんなことができるわけがない」と何回も断られましたね。その固定観念を説得していくために、かなりの時間を費やしました。僕が言ったのは、「では、なぜリアル店舗にはスタッフを立たせているんですか? 店頭でお客様のために雇用しているのに、ECサイトに立つことだけを認めないというのは意味わからなくないですか?」というメッセージを丁寧に、懇切丁寧にお伝えし続けました。

生田:その中で、最初に理解を示して導入してくれたのはどこだった?

小野里:アパレルのブランドの会社さんが3社さんほどです。本当に50社ほど必死に駆け回って、ようやく3社くらいが「まあ、初期費用がタダ同然なら、試しにやってみましょうか」と言ってくださいました。こちらも「わかりました」とお受けして、スズメの涙ほどの金額で提供し始めたところ、それが当たったんです。

生田:最初から結果が出たんだね。

小野里:そうなんです。クライアント側も最初は「あれ、本当に売れちゃったんですか?」と驚いていました。最初は「他社に知られると恥ずかしいから、まだ公表しないでくれ」と言われ、内緒にしていました。その後、その「実際にこれだけ売れています」というデータを持って他の会社に提案しに行ったところ、「それならうちもやってみる」と次々に導入が決まっていきました。そして、その企業たちからも成果が出て、PRがどんどんできるようになりました。

生田:実績がすべてだよね。

小野里:やっぱり成果だなと思いました。

生田:そして現在はかなり順調にいけているんだよね。

小野里:そうですね。今ではこの市場のシェアのほとんどがSTAFF STARTですね。取扱流通額が100、200億円を超えると、最近ではタクシーCMなど色々なメディアで露出が増えています。

生田:じゃあ今後はどういう風に展開していくの?

小野里:今後の展開でいうと、目先で進めているのは「他業界への横展開」です。アパレル業界に関してはかなり導入が進んで飽和しつつあるため、現在はコスメ、飲食、食品、家電といった業界への導入をどんどん進めており、様々な業界のスタッフさんがオンラインで接客できる時代を作っています。

その次に挑戦したいのが「サービス業」です。例えばフィットネスジムのトレーナーやエステティシャンの方々が、オンラインライブなどでトレーニングを見せ、そこから来店予約や入会に繋がった際にも、担当したスタッフさんが評価される仕組みを作りたいと考えています。

もう少し先の未来だと、保育士さんや介護士さんのような「日本において絶対に必要不可欠であるにもかかわらず、現状ではなかなか人気が出にくい職業」にも展開したいです。人のために本当に頑張っている方々に対して、オンラインを通じて「ありがとうのチップ」を届けられるようなサービスに発展させて

そうすることで、きちんと好きな仕事を続けられる世の中にしたいです。こういう仕組みをたくさん作って、将来的には世界へと持っていきたいです。世界中の頑張っているスタッフの皆さんを救ってあげたいなと思います。

生田:すばらしい。これからもきっと新しいビジネスを次々と作り上げていくことと思います。本日のゲストは小野里寧晃さんでした。本当にありがとうございました!

小野里:ありがとうございました!

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