こんにちは、キノトロープアカデミーです。
「キノトロープアカデミー」は、Web業界のトップランナーである株式会社キノトロープの社員が講師を務めるオンラインアカデミーです。リモートワーク時代に不可欠な「個のスキル」を高め、職人のような「匠」を目指す人を増やしたい。そんな願いを込め、基礎から経営判断、業務フローまで、一生モノのナレッジを惜しみなく公開していきます。
<Web担当者に喝!!編 第7回>
Webサイトのデザインを『格好よく』『インパクト』としか言わないWeb担当者よ、本来の目的に立ち返れ
についてお伝えします。
担当は生田です。
本記事では、Webサイトの本質が「格好よさ」ではなく「ユーザーニーズへの最適化」にあるとし、成果に直結する論理的なWebデザインの重要性を解説します。
サイト構築に欠かせない構造やレイアウト、運用性などの基本要素を丁寧に解説し、ターゲットを絞り込んだ設計が必然的に美しいグラフィックへ繋がる仕組みを紹介します。
見た目の装飾に捉われがちなWeb担当者や制作会社へ向け、本来の目的である「ユーザーの問題解決」に立ち返ることの必要性を解説する内容となっています。
昔から今も、担当者の方から「格好いいWebサイトにしてほしい」と本当によく言われます。私は紙のデザインをやっていた頃からずっと、そうした話を耳にしてきました。コンペに参加すると、RFP(提案依頼書)には必ずと言っていいほど「トップページや第二階層のデザイン案」が含まれています。
提案する会社のグラフィックデザインのレベルを確認したいという意図は理解できます。しかし、そもそも実績のある会社を複数呼んでいるのであれば、それらの実績を見るだけでグラフィックだけでなく「Webデザインそのもの」のレベルは十分に確認できるはずなのです。
ですから本来は、何もない中でトップページを形にするという不毛な行為ではなく、「何をやるか」という戦略や企画の提案に重きを置いてもらったほうが、お互いにずっとハッピーになれると考えています。
それにもかかわらず、中身が何も決まっていない段階からトップページや各カテゴリトップのデザインを要望されるのは、やはり見た目の「グラフィックデザイン」を異常に気にしている証拠だと言えます。
実際、プロジェクトが始まってからもグラフィックに異常なほど固執し、ページ単位で細かな見た目の指示を出してくる担当者がいます。問題なのは、その指摘のほとんどが、Webデザインの方向性やユーザーの使いやすさ、さらには運用・更新性などを一切考慮していない点にあります。
ここで、皆さんへ強くお願いしたいことがあります。「グラフィックデザイン」という見た目の領域に関しては、発注した制作会社に一任すべきです。そのほうが、結果として間違いなく良いものができ上がります。
誤解を恐れずに言えば、世の中の95%以上のWebサイトにおいて、グラフィックデザイン自体が大きな意味を持つことはありません。つまり、格好よくある必要はないのです。もちろん格好悪い必要はないので、綺麗に整えるに越したことはありませんが、世の中の95%のWebサイトに本当に必要なのは「成果に貢献できるWebデザイン」です。
ここで私は「グラフィックデザイン」と「Webデザイン」という言葉を明確に使い分けています。グラフィックデザインは見た目の色や、ちょっとした飾りなどの装飾のことで、Webデザインはサイトの構造やレイアウト、機能そのもののことです。
クライアントや多くの制作会社は「格好よく」「インパクトを出して」「デザインでユーザーを引き付けよう」と言いますが、これらはすべてグラフィックデザインで問題を解決しようとしている思考です。
グラフィックデザインがWebデザインの要素の一つであることは当然ですが、重要なのはグラフィックデザインは成果にほとんど影響を与えないという事実です。Webデザインにおいて最も重要なのは、「お客様のニーズに最適化する」こと。これをぜひ肝に銘じてください。
Webデザインの本質は、建築やプロダクトデザイン(製品設計)に非常に似ています。また、毎週・毎月のようにルーティンで情報を発信し続けるという点では、紙媒体の編集・エディトリアルデザインの要素も含んでいます。
Webデザインには、構築時に担保すべき3つのユーザー向け要素があります。
● 構造デザイン:ユーザー導線の設計(ユーザーの導線をデザインすること)
● レイアウトデザイン:ユーザーニーズに合わせた設計(ページ内の要素を、ユーザーが求める順番に並べること)
● 機能デザイン:ユーザーの使い勝手(ユーザビリティ)の設計(ボタンの配置の分かりやすさや、押しやすさといった操作性をデザインすること)
これらはすべて「ユーザーニーズ最適化」のために担保されている必要があります。さらに、
● テンプレートデザイン:新規ページ制作における利便性の向上(新しいページを迅速かつ簡単に作成できるようにすること)
● コンポーネントデザイン:更新作業の効率化(共通情報やフォーマットを小さな部品(パッケージ)として共通化し、使い回せるようにすることで、運用の負担を大幅に軽減すること)
● 柔軟性のあるレイアウト変更:運用のしやすさに配慮した設計(テンプレートをガチガチに固定せず、新機能の追加や日々の更新運用がスムーズに行える柔軟性を持たせること)
これら運用向けの3つの要素も重要になります。これら運用側のメリットは、実はユーザーにとっても「使うごとに便利になる」「前見たものがレコメンドでまとまって出てくる」といった大きなメリットに繋がります。
これらすべての要素をしっかりと検討して、構造やレイアウト, パッケージができ上がると、それがそのまま「グラフィックデザインの基本(土台)」になります。グラフィックデザインはこの土台を絶対に壊してはいけません。ここまで論理的に組み立てていけば、「どういうグラフィックデザインにすべきか」は必然的におのずと見えてくるはずです。
逆に、最後の最後でデザインの見た目について揉めるということは、構築に必要な検討をすっ飛ばしたか、相互理解が進まないまま進めてきたためのしっぺ返しだと言えます。
Webデザインが他のデザインと決定的に違うのは、「何か困っている人、ニーズがある人しか来ない」という点です。不特定多数の誰もが使う一般的な建物などとは全く異なります。企業が解決できる問題に、今まさに直面して困っている人だけが使えればそれでいいのです。
ですから、「ニーズがない人や関係のない人は、使えなくてもいい」と割り切ることが重要です。よくある失敗として、そのWebサイトを全く使わない人にデザインやユーザビリティを評価させることが挙げられますが、これは何の意味もありません。
例えば、高級ホテルのWebサイトをチェックするのに、「泊やったことがないし、今後も泊まる予定がない人」にレビューさせて何が分かるでしょうか。航空券の予約サイトを、「旅行も出張も行かない人」に評価させて使いにくいと言われても、価値観が違うため何の意味もなさないのです。
Webデザインの世界では、フラットデザインやマテリアルデザインなど、さまざまな流行り廃りがあります。しかし、これらが変化してきた根本的な理由はただ一つ、「変化するデバイスやユーザーニーズにどう対応していくか」という目的のためです。インターネットが一般化してから25年以上経ちますが、「ユーザーニーズへの対応」という本質は1ミリも変わっていません。マルチデバイス対応やOne to One対応も、すべてはお客様ニーズへの最適化の範疇が広がった結果に過ぎないのです。
多くの人は「お客様の使い勝手」を単なるボタンの位置や大きさといったインターフェースの話だと思いがちですが、本質はそうではありません。ユーザーが検索エンジンからサッと自分の問題を解決し、欲しい順番にものが並んでいて、何の迷いもなく出口まで出られること。これこそが「Webデザイン」なのです。
これが実現できて初めて、成果を出すためのデザインと言えます。極端な話をすれば、構造やレイアウトが完璧にデザインされていれば、グラフィックデザインを一切施さなくてもサイトの成果(売上)は変わりません。
唯一、グラフィックデザイン(色、フォント、イラストなど)だけは定量的な評価が難しく、個人の感性に依存する「センス」の領域です。だからこそ、ユーザーニーズに基づいたWebデザインの土台を一緒に話し合って決めた後は、最後の見た目の部分に関してはプロである制作会社に一任してほしいのです。
もちろん、「うちはブランディング重視で、エモーショナルなデザインでなければダメだ」という特殊なサイトがあることも承知しています。ユーザーの問題解決ツールではないごく少数のサイトに関しては、今回の話はすべて忘れて格好よさを追求してください。
では、キノトロープが実際に行っている、ユーザーニーズを踏まえた具体的なWebデザインの制作プロセスについて少しお話しします。私たちは、Webサイトに必要なコンテンツやユーザーニーズを洗い出すために、「ユーザー体験シナリオ」(ユーザージャーニーマップとも呼ばれます)というメソッドを必ず用います。
まず、ユーザー体験シナリオを使ってニーズとコンテンツを大項目・中項目・小項目で徹底的に洗い出し、その大項目を「ディレクトリ」に落とし込んでサイト構造をデザインします。さらに、主要なニーズをもとにユーザーの導線を複数本検証し、検索エンジンから入り口、そして出口までに必要なコンテンツのレイアウトや表示順を決定します。
時間とコストの制約があるため導線を無限に作ることはできませんが、ユーザーニーズの8割方をカバーできれば十分です。このプロセスを経てでき上がるものこそが、Webデザインの「核」となります。
ただし、こうして作ったWebデザインも、公開するまではあくまで「仮説」でしかありません。そのため、先ほどお伝えした後半の3つの要素(テンプレート・コンポーネント化)が重要になります。
箱の入れ替えが簡単にできる作りにしておくことで、公開後にユーザーの動きを見ながら素早くデザインを変更し、常に最新のユーザーニーズへ最適化し続けることができるのです。
昨今「UXデザイン」の重要性が叫ばれていますが、これまでお話ししてきた論理的なWebデザインの土台があって初めて成り立つ話です。何の裏付けもない単なるグラフィックデザインを「Webデザイン」と呼んでいる現状に、UXデザインという言葉が警鐘を鳴らしてくれているのは非常に良い傾向だと感じています。
ここで最初のコンペの話に戻りますが、事前の分析や導線設計もせず、パッと思いつきで作ったグラフィックデザインをコンペで並べて比較することに、何の意味もないということがお分かりいただけるかと思います。
プロダクトデザインで例えるなら、DVDプレーヤーの再生ボタンや電源ボタンが、押すたびに場所が変わったり形が変わったりする製品なんてあり得ないですよね。そんなもの誰も使えません。
しかし、今のWebサイトではそうした「あり得ない欠陥」が平気で溢れています。スマートフォンが登場したことで、この使い勝手のシビアさはさらに増しています。Web担当者も制作会社も、今一度Webデザインの本質について真剣に見直すべきタイミングが来ています。
本日のまとめになります。
Webデザインの肝は、ユーザーのニーズに対する最適化であり、本質的なWebデザインができていれば、あるべきグラフィックデザインはおのずと導き出されるものです。
最後に、こういう話をずっとしていると「生田さんは格好悪いデザインでいいと思っているんですか?」と聞かれますが、私は格好悪いデザインは大嫌いです。私たちが手がけるサイトはどれも格好いいものばかりだと自負しています。
ただし、「格好よくしようと思って作っているわけではない」ということを忘れないでください。私たちは徹底的にお客様のためのデザインを作っており、その結果として成果が出て、デザインとしても美しいものになっているだけなのです。すべてはお客様の問題解決のために我々は仕事をしているということを、ぜひご理解いただければと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。





